仙台高等裁判所 昭和29年(う)491号 判決
所論は原判決には事実誤認の違法があるというに帰するので記録を仔細に調査し原判決挙示の証拠を綜合して考察するに原審が認定した「罪となるべき事実」の記載形式並に文詞には工夫を要すべき点がない訳ではないが同事実は全部認めうるところであり原判決には判決に影響を及ぼすべき事実誤認を窺うに足る事由は存しない。なるほど原判決の罪となるべき事実一に被告人は福島県教育委員会事務局財務課施設係長として勤務した云々との記載があるが同委員会事務局分課規則には施設係長という職制は明定されていないのである。しかし原判決証拠一につきの部に掲記の証拠によれば被告人は事実上財務課事務分掌では施設係長の地位にあり建築営繕及管財事務を総括していたことが明認されるので所論の如く被告人は施設係職員中単に年長上席者の故のみをもつて施設係長の敬称で呼ばれていたものではない。従つて職制にはなくとも被告人を施設係長であると表示したからといつて誤りであると断定する訳にはいかない。次に同事実四に昭和二十八年四月に至り危険校舎改築促進臨時措置法案が次期国会において成立すべき予想のもとに危険校舎改築に関する事務を施設係に分担せしめることとした云々との記載がある。しかし同法は未だ法律として成立していないのではあるが法令の発効を予期し所管となるべき官署の係職員に上司よりこれが事務を管掌事務として掌理すべきことを命ぜられ着々その事務を進渉せしめ法令発効の暁に万遺憾なきを期することは当然の措置であり斯る場合いわゆる基本法令がないの故をもつて法令の内容に副う事務管掌は職務に該当しないということは出来ないこと勿論である。この点に関する所論は独自の見解に基くもので採るに足らない。更に進んで同上事実後段にまたいわゆる将来危険校舎として云々被告人を初めとする技術者の当然の職務であつたとの記載があるが前説示のとおり被告人は危険校舎改築促進臨時措置法令が成立施行前危険校舎改築に関する事務を分担すべきことを命ぜられていたのであるから該法令発効当時既に施設係の職を罷めていたとしてもその間の事務は職務であること疑いないところである。この点に関する所論は理由がない。終りに同事実五に被告人は自宅で妻ハル子の手を経て岩瀬郡仁井田村長渡辺政右衛門から前記法律が施行となつた暁においては……補助金交付について尽力して貰いたいとの請託の趣旨と……設計書の作成方を依頼するに当り……照会の労をとつたことに対する謝礼等をも含めて供与するものであることの情を知りながら右職務に関し現金一万円の賄賂を収受したとの記載があるがこの事実は前叙のとおり原判決挙示の五につきと掲記した各証拠により優に認定しうるところであるから収受金額全部につき収賄罪が成立すること言を俟たない。この点に関する所論は原審の採用しない証拠に基き之に独自の見解を加え敢えて原判決の認定を攻撃するもので採るをえない。各論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 檀崎喜作 裁判官 有路不二男)